カスハラ被害の42%が「相談しない」——理由の1位は「相談しても無駄」だった

2026年10月1日のカスハラ対策義務化に向けて、相談窓口の設置を進めている企業は多いと思います。ただ、窓口を作れば相談が来るとは限りません。実際の調査では、カスハラ被害を受けた人の4割以上が誰にも相談していませんでした。しかもその最大の理由は「相談しても無駄だと思ったから」。窓口の有無ではなく、その前段にある信頼の問題です。

相談されない窓口は、ないのと同じ——3つの調査が示す実態

部下からの相談を受ける管理職と、話しづらそうにしている従業員

カスハラ被害を受けた、または遭遇した従業員のうち、42.2%が「会社や周囲に相談しなかった」と回答しています(マイナビニュース、2026年7月)。別の調査でも、28.0%が声を上げられなかったという結果が出ています(NEXER Group / RSG調査)。

注目すべきは理由です。相談しなかった理由の最多は「誰かに相談しても無駄だと思ったから」で55.2%。別の調査では「相談しても解決にならないと思ったから」が68%にのぼりました。

相談しなかった理由の1位は、窓口がないことではなく「相談しても無駄」という諦めだった

さらに、顧客対応にあたる従業員300名への調査では、組織としてマニュアルに沿った対応ができている職場はわずか11.7%でした。窓口や規程は整いつつあるのに、報告を受けたあとの動きが伴っていない。従業員はその実態を見ています。

義務化で本当に問われるのは「報告を受けたあと」

改正労働施策総合推進法が企業に求めるのは、方針の明確化、相談体制の整備、発生時の適切な対応、相談者のプライバシー保護です。このうち窓口の設置は形として作りやすい一方、「発生時の対応」は日々の運用に委ねられます。そして運用の入口に立つのは、多くの場合、現場の管理職です。

ここで起きやすいのが二次被害です。報告を受けた上司が「もう少しうまく対応できなかったのか」「お客様にも言い分はある」と返してしまう。悪意がなくても、相談した側には「言わなければよかった」という経験として残ります。二次被害は一次被害よりも回復が難しいとされ、次から誰も報告しなくなります。

つまり「相談しても無駄」という諦めは、過去の対応が作ったものです。窓口を新設しても、管理職の初動が変わらなければ数字は動きません。義務化対応を書類の整備で終わらせるか、実際に機能させるかの分かれ目がここにあります。

管理職研修で扱うべき5つのこと

  1. 最初の30秒で何を言うかを決めておく

    報告を受けた瞬間の第一声が、その後を左右します。「教えてくれてありがとう」「あなたの対応は間違っていない」と先に伝える。評価や原因究明はその後です。とっさに出る言葉なので、研修で声に出して練習しておく価値があります。

  2. 「対応の是非」と「被害の事実」を切り分ける

    部下の応対に改善余地があったとしても、それとカスハラを受けた事実は別の問題です。同じ場面で両方を扱うと、相手には責められたとしか伝わりません。改善点のフィードバックは、日を改めて別の機会に行います。

  3. 組織として判断する線引きを共有する

    どこから要求に応じないか、どの時点で上位者や法務に上げるか、警察への通報を検討する基準は何か。厚生労働省のカスタマーハラスメント対策企業マニュアルにも判断の枠組みが示されています。管理職個人の胆力ではなく、組織の基準として持つことが重要です。

  4. 記録の取り方を統一する

    いつ、誰が、どのような言動を受けたか。記録がなければ、繰り返されたときに組織として動けません。管理職が記録の書式と保管先を把握していることが、実務上の最低条件になります。

  5. 報告した後のフォローまでを設計する

    報告を受けて終わりにせず、数日後に「その後どうですか」と一声かける。この有無が「相談してよかった」と「無駄だった」を分けます。メンタル面の変化に気づいたら産業医や相談窓口につなぐ判断も、管理職の役割です。

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まとめ

  • カスハラ被害者の42.2%が誰にも相談していない。理由の最多は「相談しても無駄だと思った」で55.2%
  • 組織としてマニュアルに沿った対応ができている職場は11.7%。窓口を作っても、報告を受けたあとの動きが伴っていない
  • 管理職研修で扱うべきは最初の30秒・対応の是非と被害の切り分け・組織としての線引き・記録・その後のフォローの5点

窓口をいくつ作ったかではなく、部下が「この人には言える」と思えるか。義務化までの2週間、そこを起点に管理職研修の中身を点検してみてください。

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