「心理的安全性を大事にしよう」と言われるようになって数年が経ちました。その結果、現場で何が起きているか。ある調査では、上司の7割が「部下を叱れない」と答えています。安心して話せる職場をつくろうとした結果、言うべきことが言えなくなる。この逆転はなぜ起きるのでしょうか。
求めているものが、正反対だった——2026年の意識調査
パーソルキャリアのJob総研が2026年6月に発表した「2026年 上司と部下の意識調査」は、両者のすれ違いを数字で示しています。
部下387人に「上司に求めること」を聞くと、1位は「心理的安全性」で46.8%。以下、チームマネジメント力44.2%、傾聴姿勢43.2%と続きます。
一方、上司136人に「部下に求めること」を聞くと、1位は「主体性」で60.3%。報連相と責任感が同率47.8%で続きました。
部下が求めるのは「安心」、上司が求めるのは「自走」。向いている方向が噛み合っていない
困りごとの割合も高い水準です。部下の62.3%が上司の指示の曖昧さなどに「困りごとあり」と回答し、上司の69.9%が部下の主体性などに「困りごとあり」と答えています。別の報道では、上司の約7割が「叱れない」と悩む一方、部下の約4割は「曖昧な指示に困惑している」という結果も示されました。
上司は「自分で考えて動いてほしい」と願い、部下は「もっと明確に示してほしい」と望む。部下が考える上司の役割の1位は「安心できる職場環境の整備」、上司が考える自分の役割の1位は「部下の育成」という調査結果も、同じすれ違いを映しています。
なぜ「心理的安全性」が「叱らない」になってしまうのか
心理的安全性という概念が広まる過程で、「安心して話せる状態」だけが切り取られたのが原因だと考えられます。その理解に立つと、指摘や叱責は安心を壊す行為に見えます。だから言わない。結果として、仲は良いが仕事の水準が上がらない、いわゆるぬるま湯組織ができあがります。
しかし本来の心理的安全性は、「安心して仕事の指摘ができる状態」を指します。反対意見を出しても、失敗を報告しても、立場が脅かされない。だからこそ率直なやりとりが成立する、という考え方です。発言しやすさは目的ではなく、質の高い議論を成り立たせるための前提条件にすぎません。
この違いは、管理職研修で明示的に扱わなければ伝わりません。言葉だけが独り歩きすると、「厳しいことを言ってはいけない」という誤ったメッセージとして現場に届きます。上司が叱れなくなっている職場は、心理的安全性が高いのではなく、この誤解が定着した職場です。
リーダー研修で扱うべき4つの論点
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「安心して話せる」と「安心して指摘できる」を区別する
研修の最初に、この2つを明確に分けて提示します。心理的安全性が高いチームほど、意見の対立は起きやすくなる。この事実を先に共有しておかないと、対立を避ける方向へ進んでしまいます。
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「人」と「仕事」を切り分ける言い方を練習する
「この資料は要件を満たしていない」と「君は詰めが甘い」は、伝わり方がまったく違います。事実と行動に限定して指摘する話法は、知識ではなく技能です。研修では実際に言い換える演習を入れてください。
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「主体性を求めるなら、判断の材料を渡す」を徹底する
上司が求める主体性と、部下が困っている曖昧な指示は表裏一体です。自走を期待するなら、判断の前提となる背景・優先順位・許容範囲を先に渡す必要があります。「任せる」と「丸投げ」を分ける線がここにあります。
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チームの現在地を測ってから施策を選ぶ
「発言が少ない」のか「発言はあるが本音でない」のか「本音は出るが行動が変わらない」のか。段階によって打ち手は変わります。感覚ではなく、簡易なサーベイや1on1での確認で現在地を把握してから設計してください。
関連する研修教材
心理的安全性をぬるま湯にせず、率直に指摘し合えるチームをつくるための研修教材です。リーダー層が実務で使える形でまとめています。
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離職率を下げ、チームの本音を引き出す心理的安全性。「発言しやすさ」で止めず、指摘し合える関係をどう設計するかまでを、講師ノート付きスライドで扱います。
まとめ
- 部下が上司に求めるものの1位は心理的安全性(46.8%)、上司が部下に求めるものの1位は主体性(60.3%)。求めているものが噛み合っていない
- 上司の約7割が「叱れない」と悩む一方、部下の約4割は「曖昧な指示に困惑」。安心をつくろうとして、必要な指摘まで止まっている
- 心理的安全性の本質は「安心して話せる」ではなく「安心して仕事の指摘ができる」。研修でこの区別を明示しなければ、言葉だけが独り歩きしてぬるま湯組織になる
自社の管理職研修が「話しやすい雰囲気づくり」で止まっていないか、資料を一度見直してみてください。