「今年の新人研修、AIを使って何かできないか」——そんな声が、研修担当者の間で急速に増えています。2026年春の入社式シーズン、ファンケルや三菱商事など大手企業が「AIを相手にした研修」を実施していることが報じられ、実際に導入した企業とそうでない企業の間で、研修設計への意識の差が広がり始めています。どこから手をつければいいのか、具体的な考え方と進め方を整理します。
2026年春に広がった「AI研修相手」——ファンケル・三菱商事の最新事例
日本経済新聞が2026年3月に報じた記事によると、生成AIの活用が広がるなか、新入社員が「AIを相手に顧客対応を練習する」「AIから危険性を学ぶ」研修が、複数の大手企業で本格的に始まっています。
ファンケルでは、社内教育機関「ファンケル大学」の研修プログラムに、AIを活用したロールプレイングツール「AIロープレ」を2026年1月から試験導入しました。コンタクトセンターの受注研修からスタートし、今後は店舗スタッフの自己学習ツールとしての展開も計画されています。何度でも繰り返せる・即時フィードバックが得られるというAIの特性が、研修効率の最大化に直結しています。
三菱商事では、生成AI研修を新任管理職だけでなく新入社員・3年目社員にも展開しており、2027年度からはAI資格を管理職の昇格要件に設定する方針を発表しています。役員を含む5,000人超への資格取得義務付けを予定しており、AI研修はいまや「任意の取り組み」から「組織の必修事項」へと変わりつつあります。
なぜ今、新入社員研修でAIを使うべきなのか
従来のOJT(On-the-Job Training)は「人が教える」ことを前提とした仕組みです。しかし、職場環境の変化が加速するなかで、構造的な課題が顕在化しています。
① 従来OJTの限界——属人的で再現性がない
OJTはトレーナーのスキルや熱意に品質が左右されやすく、「丁寧に教えてもらえるかどうか」が担当者次第になりがちです。また「先輩の背中を見て覚える」スタイルは、リモート・ハイブリッドワーク環境では機能しにくくなっています。新人が「安全に失敗を繰り返せる場」の確保が、育成の最大の課題となっています。
② AIロープレが解決する「練習不足」問題
電話応対・クレーム対応・営業トークなど、繰り返しの練習が必要なスキルは、相手役の確保がボトルネックでした。AIは何度でも同じシナリオで練習できるうえ、即時フィードバックを与えられます。新人が「失敗を恐れずに試せる」環境を、低コストで実現できる点が最大の利点です。
③ 人的資本開示の拡充が「研修の可視化」を求めている
2026年3月期から、上場企業の有価証券報告書において人的資本開示の内容が拡充されました。「人材戦略と経営戦略の整合性」「従業員1人当たりの教育研修費用・研修時間」などの開示が求められるようになっており、研修の実施記録と投資対効果の可視化が、コンプライアンスの観点からも避けられなくなっています。
研修担当者が今すぐ取り組むべき4つのアクション
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「AIに向いている研修シーン」を棚卸しする
すべての研修をAI化する必要はありません。まず「繰り返し練習が必要なロープレ場面(顧客対応・電話応対・クレーム対応)」「知識確認テスト(ビジネスマナー・コンプライアンス・情報セキュリティ)」など、AIと相性の良いシーンをリストアップしましょう。「AIに向いている研修」と「人が担うべき研修(価値観・姿勢・関係構築)」を切り分けることが設計の出発点です。
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AIロープレツールを1部署・1研修項目で試験導入する
現在、AIロープレツールは複数のSaaS形式で提供されています。まず特定の部署・研修項目に限定して試験導入するのが現実的です。ファンケルの事例のように、コンタクトセンターや営業部門など「ロープレ機会が多い部署」から始めると、効果を実感しやすく社内への横展開の説得材料も生まれます。
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「AI研修」と「集合研修」の役割分担を設計する
AIは知識習得・練習・確認に強みを発揮しますが、「価値観の共有」「チームへの所属感」「先輩からの薫陶」など、人間関係を通じて得られる学びは代替できません。集合研修では「人にしかできない体験」に集中し、知識・スキルの部分はAIと組み合わせる「ハイブリッド設計」が、2026年の新入社員研修の標準的アプローチになりつつあります。
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研修投資の記録と開示準備を整える
人的資本開示の拡充を受け、「1人当たり研修時間・費用」「プログラムの種類・実施記録」を体系的に記録する仕組みを今のうちに整えましょう。多くのAI研修ツールは受講ログを自動記録する機能を持っており、投資対効果の可視化と開示対応を同時に実現できます。
AI時代の新入社員研修教材を選ぶ際の3つの視点
- 「人が教える部分」と「AIが担う部分」が整理されているか:集合研修とデジタル学習それぞれの役割が明確な教材は、AI導入後もスムーズに機能します。
- OJTトレーナー向けのガイドが含まれているか:AIツールを補完するために、現場トレーナー自身がどう関わるかを示すマニュアルがあると、導入後の現場混乱を防げます。
- Z世代の特性に合った設計になっているか:即時フィードバック・自己ペースでの学習・心理的安全性への配慮は、Z世代が学びやすい研修環境の基本条件です。
新入社員研修からOJTトレーナー育成まで、「人が担うべき研修」を体系化した講師用マニュアルを揃えています。研修教材の一覧はこちらからご確認ください。
まとめ
- 2026年春、ファンケルの「AIロープレ」・三菱商事の全社AI研修展開など、「AIが研修相手」になる取り組みが大手企業で本格化。
- AIは「繰り返し練習・知識確認」に強く、OJTの属人性・再現性の課題を補う。ただし価値観・関係構築など「人にしかできない学び」との役割分担が設計の核心。
- 2026年3月期からの人的資本開示拡充で、研修投資の記録・可視化が上場企業には必須に。AI研修ツールの活用はその対応も同時に進められる。
- まず「AIに向いている研修シーン」を棚卸しし、1部署・1項目の試験導入から始めることが現実的な第一歩。
「AIを使った研修」は一部の大手企業だけの話ではなくなりました。小さな試験導入から始め、自社に合ったAI×OJTの形を今年度中に見つけておきましょう。
